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最高裁判所第三小法廷 平成8年(あ)125号 決定 1997年4月15日

本店所在地

東京都中野区白鷺二丁目四八番六号

株式会社徳波

右代表者代表取締役

飯田徳森

本籍

東京都中野区上鷺宮三丁目七番

住居

同 中野区上鷺宮三丁目七番五号

会社役員

飯田徳森

昭和一九年一一月二二日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、平成七年一二月二五日東京高等裁判所が言い渡した判決に対し、各被告人から上告の申立てがあったので、当裁判所は、次のとおり決定する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人東徹、同太田孝久の上告趣意は、事実誤認の主張であって、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。

よって、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 大野正男 裁判官 園部逸夫 裁判官 千種秀夫 裁判官 尾崎行信)

平成八年(あ)第一二五号

上告趣意書

被告会社 (株)徳波

(右代表者代表取締役 飯田徳森)

被告人 飯田徳森

右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、左記のとおり上告の趣意を申し述べます。

平成八年五月三〇日

右弁護人(主任) 東徹

同右 太田孝久

最高裁判所第三小法廷 御中

本件には判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するから、原判決を破棄すべきである。

一 本件の争点は、弁護人らの主張するような第一次ないし第三次契約がいずれも真正で有効なものであるか、あるいは第一審ならびに原審判決の説示、ひいては検察官の主張するような、第一次ないし第三次契約がいずれも架空で、真実は第二次契約の請負予約証拠金の二億八〇〇〇万円、ならびに第三次契約の浦和物件の転売利益が、いずれも本件土地代金の一部であるかの唯一点である。

二1 この点に関し、原判決は二の論旨に対する判断の1において、

「所論によっても、被告会社がリクルートコスモスに提供したのは本件土地の所有権のみであるのに対し、リクルートコスモスが被告会社に提供したのは国土利用計画法に基づく指導価格に従った売買代金額のほか、そのほぼ全額が土地重課の対象外となるような形での合計三億九三〇〇万円の利益であることが明らかであるから、この三億九三〇〇万円は、結局、当初予定していた専有卸での売買が頓挫し、これに代えて土地単体での売買をするほかなくなったことから、本件土地所有権移転の対価として支払われたものとみるのが当然である。」と説示している。

しかし、これは明らかな誤りで、事実は、リクルートコスモス(以下リクルートという)が被告会社に提供したのは、本件の土地代金としては、第一次契約による指導価格に従った五億四九九七万五〇〇〇円だけで、その外に被告会社がリクルートに対し、専有卸の形で本件土地を売却することが不可能になったため、本件の土地に建物を建築して、建物売却による利益をカバー(保証)するために、リクルートが第二次契約による請負予約証拠金二億八〇〇〇万円、及び第三次契約による浦和物件の転売利益一億一三〇〇万円を、それぞれ被告会社に提供することとしたものである。

2 このことにつき、原判決は裏付証拠として、二の2の(一)((一)は弁護人ら加筆、以下(二)、(三)も同じ)において、次のように説示している。

「(一) まず、取引関係者の供述を検討すると、リクルート側の本件土地の取引担当者であった長谷部裕樹は、原審公判廷において、リクルートでは被告会社との間に本件土地を専有卸の形で買い入れる旨の一応の合意をしたが、昭和六二年三月中旬に示された本件土地に対する国土利用計画法に基づく県の指導価格が坪単価約四六万円とかなり低額であったため、その時点で専有卸での取引は困難になったこと、それまでにリクルートが被告会社に交付していた同年一月二七日付買付依頼書には、本件土地相当分のリクルート側の希望価格として坪七九万円と記載していたこと、リクルートでは、専有卸での取引が困難になったため、マンション建設用地として土地単体の買受を希望し、被告会社に対し、本件土地の代金額を県の指導価格に近づけるよう要求したが受け入れられず、結局、前示の坪単価七九万円で買い受けることになり、指導価格に基づいた売買によって生ずる実際の取引価格との差額(坪当たり約三三万円)の支払方法を検討したこと、その結果、同年四月一〇日前後ころまでに、リクルートではその差額三億九三〇〇万円を大筋において第二次及び第三次契約を利用して被告会社に支払うことを提案し、第三次契約に昭和ランマーを介在させるという被告会社側の希望を容れてその了解を得たこと、第二次契約により被告会社に振込送金された二億八〇〇〇万円及び第三次契約により被告会社及び昭和ランマーが取得する形とした合計一億一三〇〇万円は、いずれも本件土地代金の一部であることを明確に証言している。そして、その証言は、原審弁護人の反対尋問によっても根幹において揺らいでいないばかりか、その内容に不自然、不合理な個所はなく、専有卸の形から土地単体の取引となった経緯並びに第二次及び第三次契約を利用して代金の一部を支払うこととした部分は事態の推移の説明として十分納得ができる。」

右の説示中、「リクルートでは被告会社との間に本件土地を専有卸の形で買い入れる旨の一応の合意をしたが、昭和六二年三月中旬に示された本件土地に対する国土利用計画法に基づく県の指導価格が坪単価約四六万円とかなり低額であったため、その時点で専有卸での取引は困難になったこと、それまでにリクルートが被告会社に交付していた同年一月二七日付買付依頼書には、本件土地相当分のリクルート側の希望価格として坪七九万円と記載していたこと、リクルートでは、専有卸での取引が困難になったため、マンション建設用地として土地単体の買受を希望し、被告会社に対し、本件土地の代金額を県の指導価格に近づけるよう要求したが受け入れられず」という部分はその通り間違いない。

しかし、その次の「結局、前示の坪単価約七九万円で買い受けることになり、指導価格に基づいた売買によって生ずる実際の取引価格との差額(坪当たり約三三万円)の支払方法を検討したこと、その結果、同年四月一〇日前後ころまでに、リクルートでは、その差額三億九三〇〇万円を大筋において第二次及び第三次契約を利用して被告会社に支払うことを提案し、第三次契約に昭和ランマーを介在させるという被告会社側の希望を容れてその了解を得たこと、第二次契約により被告会社に振込送金された二億八〇〇〇万円及び第三次契約により被告会社及び昭和ランマーが取得する形とした合計一億一三〇〇万円は、いずれも本件土地代金の一部であること。」とした部分は明らかな誤りである。

真実は、「被告会社は、リクルートに対し、一旦は本件土地を売却することを拒否した。そこであくまでも右土地の入手を熱望したリクルートは被告会社に対し、その代案として、本件土地を指導価格の坪約四六万円で買い受けること、そのために被告会社が専有卸により取得したであろう経済的利益(土地の転売利益はわずかで、マンション建設による利益が大半である)の損失をカバー(保証)するために、第二次契約において請負予約証拠金として二億八〇〇〇万円、第三次契約において浦和物件の転売利益一億一三〇〇万円を、それぞれ被告会社に取得させることを提案したこと。それに対し被告会社では第三次契約に昭和ランマーを介在させるという希望をリクルートに申し入れたので、同会社はこれを了解して、ここに両会社間において第一次ないし第三次契約を締結することの合意が成立して、昭和六二年四月三〇日と同年五月一日の両日右各契約を締結して取引を終えたこと。それ故に第二次契約に被告会社に振込送金された二億八〇〇〇万円及び第三次契約により被告会社と昭和ランマーが取得した一億一三〇〇万円は、いずれも原判決ならびに第一審判決が説示しているような被告会社に対する本件土地代金の一部では断じてなく、第一次契約の五億四九九七万五〇〇〇円は指導価格による土地の売買代金、第二次契約の二億八〇〇〇万円は同契約第二条第一項の請負予約証拠金としてリクルートが被告会社に予託するもの、第三次契約の一億一三〇〇万円は浦和物件の転売利得として、それぞれリクルートが被告会社に交付した。」ということなのである。

3 原判決は右の説示の次に、「その証言は原審弁護人の反対尋問によっても根幹において揺らいでいないばかりか」とあり、又右の反対尋問に関し、2の(二)において次のように説示している。

「所論は、同証人は、平成四年三月一二日にリクルート及び被告会社の関係者らが集まり、請負予約契約(第二次契約)の取扱等について協議した事実(これを九者会談と称する弁護人加筆。)に関し弁護人が反対尋問をした結果、第一次ないし第三次契約がいずれも有効なものであることを認めるに至っているのであるから、同証言には信用性がないと主張している。なるほど、同証言中には、原審弁護人の反対尋問に対し、第一次ないし第三次契約につき『三つの契約とも有効に成立していると思いますけど』と述べた部分があるが(原審第二回公判調書速記録五五丁表)、一方、同証人は、被告会社が本件マンション建築の元請けとなることはあり得ないと証言しているほか、所論指摘の協議については形式上存在する請負予約契約の取扱如何ないしは同契約を履行した形を作る方法を協議したに過ぎないと認識している趣旨の証言をしているのであって(同速記録五六丁裏、五八丁裏)、前記証言部分をもって、検察官の主尋問に対する証言を覆したものとはいえない。所論は採用することができない。」

そこで、右の反対尋問に対する弁護人と長谷部証人との問答に関する部分は、非常に重要であると思われるので、これに関する速記録の全文を次に転載することとする。

「弁護人(東)

あなたは、今年の三月一二日に徳波の下井草の本部の事務所に行かれたことはありませんか。

あります。

その時に、集まったのが辰村組の東関東支部の中尾さん、次長藤井さん、協信の専務の渡辺さん、徳波側からは添野専務、蛯名(海老名とあるのは誤り)店長それから加藤店長それから社長、ほか全九名が当時集まっていませんでしたか。

はい。

それで、辰村組がお宅の仕事をよくやってるんで、藤井次長とあなたはよくお知り合いですか。

はい。

それで、その時に徳波が元請、マンション建設、下請が辰村組、その下請が飛島建設ということになったようですが、そんなことじゃなかったですか。話合いの中身はね。

話の中身は似たようなものですけれども。

今の請負契約がずうっと続いてて、そして徳波に元請業者としてやらせる、徳波が下請業者に辰村組、あるいは辰村組が飛島建設にまた下請と、そういうふうな順序で本件のマンション建設を請け負わせるというつもりが今日現在までお宅のほうでおありだということじゃないですか。あればこそ、そういうふうな九人も集まって話をしたんじゃないですか、ということを聞いているんです。要するに、続いているんでしょう。開発許可、それから建築確認の許可、そういう順序であの契約が生きてるんじゃないですかという質問なんですよ。

契約の請負予約契約を締結したのは事実ですから、その請負契約書に基づきまして履行したいということでお願いにあがってるわけですね。

つまり、どういう形態にしたらいいのかということを含めてですね。

ですから、その件については確かに事実ですし。

そうすると、請負契約なるものも有効で、生きておるというようなことになりますね。架空じゃないですね。生きているのでおやりになったんでしょう。まだ建築の確認の許可は下りてないんですか。

下りてないと思います。

土地だけでは売らないということを社長も終始言ってたということだけど、どういうことを聞いてますか。

……いや、記憶ございません。

先程、今でも請負予約契約が通じているということおっしゃったね。

はい。

それで、何も広い意味の土地、初めの話は七九万で出たわけ。

はい。

ところが、指導価格(取得価格は誤り)に従った。

はい。

いわゆる土地だけの取引では出来ないから、それでああいう契約が出来たんじゃないですか。

……

七九万では土地売買契約は出来ないから、だから請負契約の予約みたいなことが出来た。そちらのほうにもうけさすために、そういう契約が出来て、それが今日までずうっと続いているということですね。

それは、そのとおりです。

その時に、徳波の側でもうちの家庭の事情があると言って、昭和ランマーを介入させてくれという注文が出て、あなたはいいですよという返事をしたのは間違いないですね。

はい。

その三つの契約はいずれも有効じゃないか、という質問です。

三つの契約とも有効に成立していると思いますけど。

検察官

先程、今年三月に何か請負契約の本契約の話が出たというんだけど、これはあくまでも形の上ではその仮契約が前にありましたよね。

はい。

それがあるから、その後も何か応対しないとまずいというんで、したいという感じなんですか。

ですから。契約書上に従う形で、それを履行するためにお話合いをしたということです。

裁判長

じゃ、そういう話合いを持つまでのいきさつはあるんでしょう。突然話合いを持ったの。

いや、それは違います。

何かあるんでしょう、その三月に集まるまでの。

はい。

それはどういうことなの。

一応請負契約の予約契約という形で締結をしておりましたし、時期がここまでずれたことに関してはいろんな問題点があって、四年ないし、五年という当初の稟議事項では昭和六二年の四月三〇日に土地を買って、昭和六二年の年末には着工する予定で私どもも事業計画を立てておったんですが、やはり近隣折衝であるとか開発、先程の土地と交換等々の問題点があって四年ないし五年間という期間を経てしまった、と。やはり年内には着工したいと、つまり今年中には着工したいというような話があったので、それで打合せを持ったという形なんですが。

検察官

仮に、本契約が出来たからといっても、徳波がもうかる金というのは、既に渡した二億八〇〇〇万しかもうからないわけですよね。

はい。

もう、その金は渡してあるわけですね。

はい。

徳波自身が工事するわけでもないし、この契約書上もね。

はい。

ただ、形だけをつくるというのに過ぎないわけですね。

はい。

裁判長

そうしますと、先程証言していた飛島建設に建設をやらせるという話との関係は、どうなるの。先程、この契約から間もなく五月に飛島建設を選んだというような話をしてたでしょう。

はい。

あの話はどうなるの。

一応、契約書にあります下請業者の選択ということで、飛島建設をセレクトしたということです。

飛島建設とは、契約はまだしてなかったの。

してません。つまり、幾社かある業者のうちの選択をする、つまり一番安い業者の選択をするために飛島建設を選んだということだけで、飛島建設とはまだなんの発注ないし請負の契約行為等も何もされてません。

弁護人(東)

それに関連して、徳波側としては、まだ出る幕がないんじゃないですか。というのは、建物のマンションの建設する開発許可もまだ出てない、それから建築確認も出てない、そういうところでは、まだ本件マンション建設の正式の契約も結ばれてないね。

はい。

そういう時点では、徳波側としては、まだ登場する機会がないとは言えませんか。

……。

本契約結んだら、それは徳波さんとしても請負業者として出なくちゃいけないかもしれんでしょう。その時点では、徳波のほうではまだ出る幕がないというので待機しとるというのかな、そういう状況じゃないんですか。契約結んでないんですよ、本契約。

本契約というのは請負の本契約ということですか。

本件マンションの二つ目の予約契約。(これは本契約の誤り)

それは、まだです。

裁判長

それでは、三月に集まって、徳波のほうでは、請負やりますというようなことを言ってたのですか。その場では。

その場では、もちろん、徳波は実際の工事は出来ませんから。

出来ないんでしょう。

はい。

だから、請負契約結びたいなんて言ってましたか。

徳波さんの名前では、現実問題として、特定建設業の免許も現状ないわけですから、そういう問題で出来ないという話をしました。

そうすると、徳波が元請になって飛島建設が下請になるなんていう契約の形はありうるんですか、あなたの経験からして。

ですから、現状ではあり得ません。

弁護人(東)

今、ないとおっしゃったけどね、ありうればこそ、わざわざ徳波の事務所まで集まったんじゃないですか。なけりゃ、集まるはずがないもんな。

ですから、方法論を模索するために集まってるわけで。

でも、形はともかく届けは徳波ですよ。だから、徳波の事務所に集まったんでしょう。

それはそうです。」

右の証言中、原判決が「一方同証人は、被告会社には建設業法上の特定建設業の免許(以下これを特免という)がないことから、第二次契約に基づいて被告会社が本件マンション建築の元請けになることはあり得ないと証言している」と説示している部分については、その続きにおいて(右速記録の最後の部分)弁護人(東)が、「今、ないとおっしゃったけどね、ありうればこそ、わざわざ徳波の事務所まで集まったんじゃないですか。なけりゃ集まるはずがないもんな。」という質問をしたのに対し、長谷部証人は、「ですから、方法論を模索するために集まってるわけで。」と答えて、被告会社が元請になり、その下請として辰村組、またはその下請として飛島建設にやらせるか、あるいはその他に被告会社が特免を有する建設会社とベンチャービジネスを組んで、同会社に下請をやらせるか等の方法論を模索するために九者会談を催したことを明白に証言している。しかも同証人は第二次契約を締結したのは事実故、その請負契約書に基づいて履行したいということで、被告会社にお願いにあがっていることは確かに事実であると、これまたハッキリと証言している。従って九者会談は、近く開発許可や建築確認が下りることになった故、被告会社と本契約を結んで本件マンションの着工に備えるために、関係者が被告会社に集まって下請問題の協議をしたものである。そこで同証人は東弁護人の問いに答えて、原判決の説示のように、「三つの契約とも有効に成立していると思いますけど」と明白に述べている。そして、その証言は、三つの契約とも架空なものではないと述べている外井章次原審証人の証言と一致しているのである。

一方、長谷部証人は裁判長の問いに答えて、「徳波さんの名前では、現実問題として特免も現状ないわけですから、そういう問題で出来ないという話をしました。そうすると、徳波が元請になって飛島建設が下請になるなんていう契約の形は、現状ではあり得ません。」と述べているが、これに対し東弁護人の「今ないとおっしゃってたけどね、ありうればこそ、わざわざ徳波の事務所まで集まったんじゃないですか。なけりゃ集まるはずがないもんな。」という問いに対し、「ですから、方法論を模索するために集まってるわけで」と答えて被告会社が元請となり、特免を有する建設会社が下請になるなり、あるいは両者がベンチャービジネスを組むなりすることが、あり得るわけであるから、その方法を模索するために九者会談を開いたものであると、訂正の証言をしているのである。

もし右の第二次契約の二億八〇〇〇万円が公表上予約証拠金という形態をとることに仮装したものに過ぎず、実際は本件土地代金の一部であるとするならば、リクルートでは既に本件土地を被告会社より買入れて入手済みで、登記も済ましているのであるから、被告会社のことなど全然考慮しないで、自己の欲するままに自由にマンションを建設すればよいのである。ところが第二次契約が真実で、有効に成立しておればこそ、長谷部は開発許可や建築確認が下りることが間近に迫ったので、同契約の第四条第一項の本契約を結ぶに当たり、特免を有する下請会社なり、同じく特免を有する会社とジョイント・ベンチャーを組むなりする、その方法を模索するために、九者会談を催したものであり、このことは、形式を整えるだけのために大の大人が九人も顔を揃えるはずがないことを考え合わせれば、一そう明白である。故に原判決の「前記証言部分をもって検察官の主尋問に対する証言を覆したものとはいえない」とする説示は大いなる誤りで、右の検察官の主尋問に対する証言は、弁護人の反対尋問により完全に覆えされて、根幹より揺らぎ、あたかも太陽の前の霜のように消え失せてしまったのである。

又原判決は「長谷部証人の内容に不自然、不合理な箇所はなく、専有卸の形から土地単体の取引となった経緯並びに第二次及び第三次契約を利用した代金の一部を支払うとした部分は事態の推移の説明として十分納得ができる。」と説示しているが、真正に成立したことが火を見るよりも明らかな第一次ないし第三次契約がすべて仮装で、第二次契約の二億八〇〇〇万円及び第三次契約の一億一三〇〇万円がいずれも本件土地代金の一部であるとするような同証言の内容こそ、不自然、不合理の極みであって、右の両契約を利用して土地代金の一部を支払うこととした部分は、事態の推移の説明としては、到底納得することができないのである。

なお、右の九者会談については、次のような事実がある。即ち、被告人の第一審公判廷における供述によれば、「平成四年二月末頃長谷部より添野に対し、『被告会社には特免がないが、被告人の実兄の飯田一男社長が経営する伏見建設が特免を持っているので、被告会社が右の伏見建設とジョイント・ベンチャーを組んで本件の建築をやってほしい。』という申し入れがあった。そこで同年三月一二日に被告会社から被告人、添野、蛯名、加藤の四名、リクルートから長谷部ほか一名、辰村組から三名、計九名が被告会社の本店に集合して、九者会談を開いた。その会談の趣旨は、近く開発許可が下りるので、右のように被告会社が有しない特免をどのようにクリヤーして、リクルートが本件のマンション建設を被告会社に発注するか、ということを協議するためのものであった。そしてその際特免を有する辰村組が、被告会社とジョイント・ベンチャーを組んで発注する案が、右被告会社と伏見建設がジョイント・ベンチャーを組む案以外に新たに浮かび上がったが、その場では結論に達しなかったので、右の案をそれぞれ自社に持ち帰って検討した上、又集まろう、ということになって散会した。そこで被告人が伏見建設へ赴いて、同会社とジョイント・ベンチャーを組んでほしいと依頼したところ、同会社ではこれを了承したので、長谷部にその旨を伝えた。しかし同人からは、その後何らの返事がないままになっている。」というのである。

右によれば九者会談は前述の通り、長谷部の被告会社に対する申し入れによって開催されたのである。これをもってすれば、同会談は原判決が説示するような、単に形式上存在する、いわば架空の第二次契約の形を整えるためのようなものではなく、実際に本契約成立の条件を整えるための必要から、リクルートからの積極的な働きかけにより催されたものであることが、明白に看取されるのである。

4 被告人が原判決や第一審判決が認定するような、本件土地を坪約七九万円でリクルートに売却する筈がないことは、次の三つの事実からもハッキリ言える。

(一) 被告人は平素から、「土地重課の対象になるような、土地単体の取引は絶対にするな」と部下に強く指示し、自らもこれを率先して実行して来た。このように節税に努力することは、経済人としてなすべき当然の行為である。ところがもし本件土地を、単体で坪約七九万円でリクルートに売却するとしたならば、第一審判決の「罪となるべき事実」欄中の別紙「ほ脱税額計算書」中の「14土地譲渡税額」にあるように、一億〇九四三万四八〇〇円もの巨額の土地重課が課せられて、被告会社の利益がほとんどなくなり、赤字になる可能性すら出て来る。被告人はこのような巨額の土地重課がかかることを十分知っていたのであるから、見す見す本件土地を単体で坪約七九万円でリクルートに売るようなバカなことをすることは、絶対にないのである。

(二) 被告人は本件取引まで約一五〇〇回もの土地の取引をしているが、指導価格を超過した、国土法違反になるような取引をしたことは、唯の一回もない。ところが被告人がもし本件土地を坪約七九万円で売買したとするならば、指導価格より坪約三三万円も超過した、明白な国土法違反の取引となって、懲役刑又は罰金刑の処罰を受けることになる。被告人がこんな危ない橋を渡ってまでリクルートに本件土地を売るようなバカなことをすることは、これ亦絶対にないのである。

(三) もし被告人が本件土地を単体で坪約七九万円でリクルートに売ったとするならば、その旨の契約を書面で取り交わすのが通常で、このような巨額の取引を書面を作らないで、口頭だけですますようなことは絶無であると申しても過言ではない。しかるに本件については、捜査段階で東京国税局の査察官や井内検事が被告人に対し、「坪約七九万円の売買契約書を出せ」と執拗に迫ったが、そんなもんはもともと始めからないので、被告人は繰り返しその旨を述べて抗弁したため、査察官や井内検事も最後は、始めからそんな契約書などなかったものであることを認めざるを得なくなって、追求をあきらめた経緯がある。

さらに原判決は二の2の(一)の末尾において、次のように説示している。「加えて、同証言は、昭和六二年一月二七日にリクルートコスモスが被告会社に対して発行、交付した買付依頼書に、本件土地の買受代金として坪七九万円の記載があること、本件土地取引に関するリクルートコスモス社内の決裁を得るために長谷部が同年四月一三日に起案して上司に提出した稟議書には、本件土地を坪七九万円の価格で仕入れる旨の記載があることなどの客観的証拠と照応している。」

先ず右の前者の買付依頼書は、次のような経緯で、被告会社がその融資先である日債銀に対し、既に借入れてある借入金(本件土地買入資金)の返済が確実に出来るようになったことを示すために作成されたもので、真に本件土地を坪七九万円で買うという意思表示ではないのである。即ち、当初リクルートは、被告会社に本件土地を売却してくれるように依頼したが、被告会社は、土地だけの売買は土地重加算税がかかり、利益は税金で取られるだけだから嫌だと、本件土地の売買を断った。しかしそれでも、リクルートは、本件土地の上にマンションを建設し、それを販売して利益を得ようと考えて、被告会社と交渉を続けた。その交渉の過程において、被告会社は、仲買人の外井やリクルートの示唆により、被告会社の方で本件土地の上に建物(マンション)を建築し、その出来上がったものを土地付建物としていわゆる専有卸の形式による建物(マンション)の売買であれば、建物売却による利益であるから、土地重加算税がかからない(但し、建物原価の四二パーセントを超える利益は土地売却による利益と見做される)ことを知った。

そこで、被告会社は、第一審第六回公判記録中の被告人の供述調書の末尾添付の土地重課の説明書記載のように、被告会社の方で本件土地の上に二〇七〇・二二坪のマンションを建築し、それを土地重課のかからない限度額である二〇億一三〇〇万円余(建物の坪当りに直すと坪九八万三三〇〇円になる)であれば、売却してもよい旨リクルートに申し出たところ、同会社もそれを了承して両者間に一応の合意が成立した。

但し、右の計算方法は被告会社がしたもので、建物の原価が一〇億七〇〇〇万円である(右説明書)こと以外は、リクルートに説明した訳ではないし、まして坪七九万円というような話は全く出ていない。

このように両者間に一応の合意が成立したので、被告会社では同会社の融資先である日債銀新宿支店に、マンション売却により本件土地買入の際の借入金を確実に返済することが出来るようになった旨報告した。

そうすると、同支店からそれが真実であれば、買受人より買付依頼書をもらってくるようにとの指示があった。ただし、建物はまだ建築されていないので、土地代金についての買付依頼書を持ってくるようにとの指示であった。

そこで、添野は外井を通じて、リクルートの長谷部に対し、本件土地の買付依頼書を出してくれるように依頼した。

そして、添野は、長谷部から土地代金を坪七九万円とする旨の本件買付依頼書を受け取って、それを日債銀に提出したのである。

長谷部が、右のように本件土地代金坪七九万円としたのは、前記総額二〇億一三〇〇万円余(マンションの延面積の坪当り九八万三三〇〇円)のうち、いくらを土地代金とし、いくらを建物代金とするかについて、被告会社とリクルート間で、まだ取決めがなされていなかったため、右総額から土地代金だけを算出することが出来なかった。

そこで、リクルートは、建物代金の原価(被告会社が下請業者に支払わなければならない建築費)が一〇億七〇〇〇万円であることを知っていたので、右総額から、それだけを引いて、本件土地の坪数一二〇〇・七一坪、即ち三九六二・三五平方メートル(本件土地売買契約書)(買付依頼書に三六〇一・三八平方メートルとあるのは誤り)で割ったものが、坪七九万円となったので、その旨の買付依頼書を書いたのである。

しかし、右総額には、建物売却による利益(右説明書のとおり、被告会社は四億四九四〇万円と考えていた。)が当然含まれていたのであって、営利会社同士の取引で建物売却の利益をゼロにすることはあり得ないので、リクルートとしても、右総額には建物売却による利益が含まれていたことを知らないはずはないのであるから、坪七九万円という中にも、建物売却による利益が含まれていることを当然知っていた。そこでリクルートが、坪七九万円が真の意味での本件土地代金を意味するものではないことを十分認識していたことは明白である。

それでは、何故リクルートが建物の売却利益を含んだものを土地代金であるかのような買付依頼書を書いたのであるかというのは、前述のように、被告会社が日債銀からの借入金の返済を待ってもらうための書類であるから、土地代金であろうと建物の売却利益であろうとトータルとして、建物原価以外の金額を間違いなく被告会社に支払うのである、そこで、右全部を土地代金と評価しても銀行に迷惑をかけることはないと考えて、それほど厳密に考えなかったからなのである。

その証拠には、リクルートは、被告会社と共に、買付依頼書を作成して間もなく、国土法の許可の申請手続をとったが、その申請書では、土地代金を坪七九万円ではなく坪約七〇万円としているのである。それを見ても、坪七九万円というのは土地代金だけでなく、建物の売却利益が含まれていることを両社とも認識していたことは明白である。

なお、被告会社では坪七〇万円のような高額で国土法の許可が下るはずがないと言っていたのに、リクルート側で一応様子を見るために七〇万円で申請を出してみたいというので、その許可申請書に判を押しただけで、坪七〇万円で売買する意思であったのでは決してないのである。

このようにして、買付依頼書は、被告会社とリクルートとの間で本件土地を坪七九万円で売買する旨合意したものではなかったことが明白である。

なお、少なくとも、土地等の不動産の取引に当っては、その取引が最終的に確定するためには、必ず売主が買付依頼書に対応する売渡明細書を買主に交付するのが通例であるのに、売主の添野はこの売渡明細書を買主の長谷部に交付していない。これはこの段階で、その売買が単なるリクルートの一方的な申入れ(いわば片思い)に過ぎなくて、両者間で最終的合意が出来てなかったことを明白に物語っているものである。

次に後者の稟議書の件については、前述のように買付依頼書に本件土地を坪七九万円で仕入れる旨の記載をしたので、これと符合するように本件土地を坪七九万円で購入するように記載したものと見る外はない。

従って右の買付依頼書と稟議書の記載が長谷部の証言と合致しているからといって、これらを両者間において、本件土地を坪約七九万円で売買することが確定されたものである旨の証拠とすることは、大いなる誤りである。

三 原判決は二の2の(三)において、「さらに、被告会社側の取引担当者添野哲雄及び被告人の検察官に対する各供述調書の内容は、長谷部の原審証言と符合するものであり、これを信用するに十分である。」と説示している。

右のうち、添野の検察官に対する供述調書については、同人が捜査段階において、検察庁へ出頭するに当り、東弁護人から予め、「検察官調書の内容が真実と異なる場合には、将来裁判で不利になるから、決して署名・押印しないように」という強い指示を受けた。

ところが、同人は第一審の第三回公判において(尋問調書二〇丁)、「取調べは四月二〇日から始まって四日くらいしてから一番最初の調書ができたのですが、署名してくれと言われたとき、私の記憶している事実と調書が異なっていたので署名押印を断りました。そうしたら三日くらい押し問答になりました。そして、休憩の時に被告人に会って私が署名しないと言ったら、被告人の担当検察官は、店長・事務員などを全員逮捕すると言ったけれども、それでは会社がつぶれてしまうと被告人から言われたので、私の記憶している事実とは異なっているけれども署名押印をしました。」と証言し、

又同第四回公判において(尋問調書一二丁)、

「現実は水野検事さんに調べられて、心にもない調書に署名捺印したことになるな。

はい。

しかし社長がそういうふうに言ったのだから、やむなく心にもなく署名捺印したと、こういうことなの。

はい。

それじゃ真実はどこで述べれば聞いてくださると思ったの。

私は飯田社長から、とにかく各店長事務員さんに至るまで全部逮捕されては、会社が運営していかないと、それなので判こ押すように、それに対して真実は法廷の場で述べようと。

法廷だな。つまりこの法廷だな。

はい。

この法廷で、あなたが今裁判官に向かってそういったお答えをしておるのがただ一つの真実なんだな。

はい。

と証言している。

即ち添野証人は、被告会社の被告人を始めとして、社員の全員が逮捕されるようなことになれば被告会社は潰れてしまい、そうなると被告人らが二〇年間孜々営々として築き上げて来た信用や財産等が一瞬のうちに失われ、社員やその家族が路頭に迷って、取引先にも多大の迷惑を及ぼすことになる。そこでそうした最悪の事態を回避するため、この際は検察官の強圧に屈して、心ならずも起訴事実に添うような記載のある供述調書に署名、押印するより外に道がないと考えて、右の調書が作成されたのである。従って同人の検察官調書には、長谷部の第一審における証言と符号するからといっても、特信性は全くなく、かえって同証人の第一審公判廷における「第一次ないし第三次契約がいずれも真正で、有効である」とする証言こそ、正に真実を吐露したものであると言うべきである。

四 原判決は右のうちの被告人の検察官に対する供述調書につき、二の2の((四)は弁護人加筆)において次のように説示している。

「所論は、このうち特に被告人の検察官調書四通(平成四年四月二六日付、同月二七日付、同年五月三一日付及び同年六月三日付)の任意性と信用性を強く争い、被告人は平成四年四月二五日から翌二六日にかけ、取調べ検察官から自白しないと被告人だけでなく、被告会社の社員全員を逮捕するなどと脅迫されたことから、やむなく同月二六日付及び同月二七日付の二通の検察官調書の署名指印に応じたものであり、続く同年五月三一日付及び同年六月三日付の各検察官調書にも、一旦自白してしまった以上これを覆すことはできないと考えてやむなく署名指印したものであると主張している。しかしながら、被告人は捜査段階から弁護人を選任していながら、脅迫、強要という極めて重要な事態を直ちに弁護人に訴えていないばかりか、当初の概略的な自白調書に署名指印してから約一か月の間に弁護人と十分対応を協議する余裕があったのにもかかわらず、契約書や領収証などの多数の客観的資料に基づく具体的かつ詳細な自白調書(五月三一日付)他一通への署名指印にも応じている。これは所論を前提とすれば甚だ不自然であるのに、被告人により合理的な説明はまったくされていない。そうすると、所論に符合する被告人の原審公判廷における供述を信用することができないとした原判決の判断は、正当と認められる。所論は採るを得ない。」

1 右説示のうち、弁護人らが被告人の自白調書四通に任意性ならびに信憑性がないと主張する個所は、非常に重要な部分であるから、同年四月二六日付同月二七日付の二通の自白調書が作成された経過、ならびにその延長として、同年五月三一日付、同年六月三日付の二通の自白調書に被告人が署名、押印するに至った経緯につき、詳細に陳述することとする。

被告人の第一審公判廷における供述によれば、

(一) 平成四年四月二〇日頃から東京地検特捜部の井内検事を中心に、松尾、水野両検事を両翼として、本件の捜査が開始された。

弁護人らとしては、右の三検事が必ずや紳士的態度でもって、右特捜部に出頭した被告人を始め被告会社の社員六名の言い分によく耳を傾けた上、慎重に起訴、不起訴を決めて下さるものと期待していた。とくに東弁護人は捜査の開始に先立ち、右の全員に対し、「過去に起きた事実は唯一つしかないのであるから、その唯一つしかない真実を申し述べて、そのことを検事調書に記載して下さったのなら、その調書に署名押印せよ。しかし事実ではない、虚偽のことが調書に書かれたならば、署名、押印してはならない。もしそのような調書に署名、押印したら後日裁判になった暁に、そのような調書が法廷でまかり通って、被告会社や被告人が無実の罪に陥られる危険性が大きくなる」と、このことのみを強く指示しただけで、その他のことについては一切指示しなかった。

(二) ところが、検察官の取調べが始まるや、井内検事らは被告人らに対し「告発事実の通りの脱税の事実を認めろ」の一点張りで、被告人らの弁明には一切耳を傾けてくれず、予想をはるかに越えたきびしい取調べで、弁護人らの検察官に対する右のような期待は、完全に裏切られてしまった。

(三) とくに被告人は平成四年四月二五日に井内検事の許に出頭したが、同検事は始めから右のように、「リクルートとの取引に関する告発事実を認めよ」の一点張りで、被告人の訴えを全然聞いてくれず、想像を絶する峻烈な取調べを受けた。そして右の二五日に同検事は、被告人に対し「脱税の事実を認めなければ被告人を逮捕する」と、何回もくり返して脅迫的言辞を弄したが、これに対し被告人は、自分が居なくても、社員だけで何とか会社を運用することができるだろうと考えて、二年でも三年でも頑張るつもりで抵抗した。しかし翌二六日の深夜に至り井内検事は、「お前のところは社長を始め、社員全員が否認するので、らちがあかない。これではつき合っておれず、世の中がメチャクチャになるぞ。そこで社長以下事務員にいたるまで社員全員を逮捕する。そうなると君の会社は間違いなく潰れるぞ。」と更に一層きびしい脅迫的言辞でもって、強硬に被告人に迫って来た。これはあたかも被告人が井内検事から、被告人の胸元にピストルを突きつけられたのと同然で、このようなことを検事の密室で深夜に強く言われて脅迫されたら、百人が百人、皆その脅迫を真に受け、それに耐えかねて、検事の言いなり放題になって、その軍門に下るのは、火を見るよりも明らかである。そこで被告人も、もし被告会社が潰れると、被告人を始めとして、社員約七〇名、大工約一〇〇名、その他の下請やその家族を含めて五~六〇〇名が忽ち路頭に迷って、一切が終わりとなるに違いないと直感した。それ故被告人は「真実が書かれていない自白調書には決して署名、押印するな」という東弁護人の強い指示には背むくことになるが、被告会社が倒産するという、致命的な、最悪の事態を回避するために、背に腹は変えられず、真実は他日法廷において吐露して、裁判所に聞いていただくより外に道はないと考えて、止むなく井内検事の軍門に降った。そして、同検事が一方的に作成した同月二六日付(正確には翌二七日午前〇時三〇分に作成、深夜に急遽作成されたため、この調書は検察事務官の手書きである)と、翌二七日付(これはワープロで打たれている)の二通の自白調書に署名、押印した。その調書の内容たるや、添野と長谷部が検察官の前で無理矢理に供述された内容とそっくりそのままで、被告人の言わんとする真実が全然記載されていない、いわば砂上の空閣ともいうべき虚偽、架空のものであった。そして被告人はこのような自白調書が出来上った以上、その自白を撤回することは不可能であると思い込んでいたし、又右両供述調書を訂正するよう井内検事に申し出ることにつき、弁護人らから、何らの指示も受けなかったので、それより一ヶ月余り経った同年五月三一日付と、同年六月三日付の、前記の同年四月二六日付と、翌二七日付の自白調書と全く同一の内容の自白調書にも署名、押印した。従って右の計四通の自白調書は、原判決が説示するように、形の上では契約書や領収書などの多数の客観的資料に基づく具体的かつ詳細な自白調書(五月三一日付他一通)のように見えていても、真実の「供述人」は「被告人飯田徳森」ではなく、その調書を自作自演した「検事井内顕策」と記載すべきものなのである。

(四) 以上(一)ないし(三)の各事実を総合すれば、被告人の右の四通の自白調書が任意性、信憑性共にゼロであることは火を見るよりも明らかである。即ち任意性についていえば、右の自白調書はすべて、「強制、精神的拷問脅迫の下に作られた、任意にされたものでない疑いの極めて強い」(憲法第三八条第二項、刑訴法第三一九条第一項)ものである。さきに特別公務員暴行陵虐致傷罪により起訴されて裁判に付せられた金沢仁元東京地検特捜部の応援検事は、自己の密室において被疑事実を否認する参考人に対し、肉体的暴行を加えたが、井内検事は被告人に対し、右のような肉体的暴行こそ加えてはいない。

しかし、「強制、精神的拷問、脅迫」を加えて自白を強要している点においては、正に金沢元検事と兄たり難く弟たり難しと申してよい位である。そこでこれらの自白調書には任意性がないから、到底これらを証拠とすることが出来ない。従って信憑性についても、被告人の経験した「唯一の真実」が全然盛られていないものであるから、信憑性も亦ゼロであると申すべきである。

(五) 被告人が平成四年四月二六日付と、翌二七日付の二通の自白調書に署名押印した後、同年五月三一日付と同年六月三日付の二通の調書に署名、押印するに至るまでの、一ヶ月余りの井内検事の被告人に対する取調べ状況を見れば特に前者の二通の自白調書につき、任意性ならびに信憑性がないことを、よく御認識願えると思うので、そのことについても申し述べたいと思う。

(1) 弁護人らは平成四年四月二〇日検察官の取調べが開始された後、その取調べを受けた被告人や社員達から逐一取調状況の報告を受けたが、それらの者達から、異口同音に、検察官の取調べが余りにもひどく、それらの者達の人権が全く無視され、それらの者達及びその家族が恐怖のドン底に陥っていることを、泣かんばかりに訴えられた。弁護人らはその当時、被告人や社員らが井内検事らから取調べを受けている案件は、前述のようにリクルート事件の外に五個の事件があり、その上右各事件の公訴の時効期限が同年六月末日であるから、被告人らに対し、更に最大限二ヶ月もこのような過酷な取調べが続くであろうと予想した。そこでこのような取調べが続くと、それらの者が疲労困憊の極に達して、倒れる者が続出するのではないかと非常に憂慮した。それ故弁護人らはたまりかねて、悲壮な決意でもって、それらの者に対する取調方法の改善を井内検事に申し入れることとし、右被告人以下七名の訴えの要点を、次の四項目の要望事項書にまとめた。

「要望事項

(株)徳波弁護人

東徹・太田孝久

一、飯田社長や社員を日曜、祭日に、しかも午後七時に呼出して、深夜に及ぶ長時間の取調べをするようなことはお止め願いたい。

二、右のようなことを連日にわたり行なうこともお止め願いたい。

三、その他飯田社長や社員の健康を損ねたり、それらの者の仕事の重大な阻害原因になるような取調べをお止め願いたい。

四、飯田社長や社員の供述をお聞きになりながら、それに耳を傾けず、ご自分で作った供述内容を示して、その調書に署名捺印することを強要するようなことはお止め願いたい。

(以上)

平成四年四月三〇日

井内検事 殿」

(2) その上で弁護人両名は平成四年四月三〇日午後井内検事の許を訪ねて、東弁護人が右要望事項を同検事に手渡した上それを朗読した。すると同検事は忽ち烈火の如く怒り出し、その朗読を終わりまで聞こうとしないで、「何をいうか、そんなもの受け取れるか。」とその要望事項書を怒気鋭く突返して来た。弁護人らはその時の井内検事の物凄い憤怒の形相を、永久に忘れることが出来ない。そこで東弁護人は「私は弁護人ですぞ」と一応反論したが、直ちに要望事項書の返却を求めて、「も早これまで」と、同検事に対し、「どうぞよろしく」という一言を残して、弁護人両名ともども同検事の許を辞した。東弁護人としては、その時点で同検事はとてもとても被告人の言い分を聞いてくれる相手でないと、同検事を完全に見放して、同検事との接触を一切断念し、この上は他日被告会社や被告人が起訴された暁、「戦場」を法廷に移して、裁判所に対し、本件における「唯一の真実」を必死になって訴えて、それを聞いていただくより外に道がないと、固く決意したのである。

(3) 東弁護人らが井内検事に要望事項書を提出したが受理されなかった反響には、それはそれは物凄いものがあった。即ち右の要望事項書を持参した当日の四月三〇日に、弁護人らが井内検事の許を辞した後、被告人に対しては、五、六時間何の調べもなく、その後井内検事は被告人に対し、「なぜ東を雇ったのか、あの先生をひきずり下せ」とくりかえしくりかえし東弁護人の解任を強要した。そして、その夜から同年五月二〇日頃までの間約二〇〇回の多きに亘り、被告人に対し、他の事件(町田事件)の調べの間に、思い出しては間欠温泉のように、爆発的に、「東弁護人をひきずり下せ」ということと、「国税不服審判所への申立てを取下げろ、取下げたらリクルートの問題だけを起訴してあとは不問に付して、間違いなく執行猶予にしてやる」ということを、一パックにして執拗に強要した。そのうち、井内検事が「東弁護人を下せ」という強要をした理由は、

ア 同弁護人が裁判長出身で、刑事裁判に詳しい故苦手であること、

イ 同弁護人が被告人以下検察官の取調べを受けた社員らに対し、「過去に起きた事実は唯一つだから、それのみを主張して、検事調書に書いてもらえ」と強く指示し、それに応じて全員が検察官の取調べの対象である告発事実を否認したので忌み嫌ったこと、

ウ 国税不服審判所への不服申立の取下げについても、東弁護人が被告人に対し、「絶対に取下げてはダメだ、取り下げると大阪城の外壕を埋められたのと同じく、他日法廷において真実を訴えても、自己矛盾に陥って迫力がなくなり無罪になる可能性が非常に少なくなるよ」と指示したので、被告人がこれに従って、井内検事の強要をはねつけて、不服申立を取下げなかったこと、

以上の三点につきる。

右の「東弁護人を解任せよ」という強要については、被告人がこれを拒否したので、「未遂」に終わったものの、井内検事のこのような言動は、憲法第三四条にいわゆる被疑者段階における弁護人選任権の侵害で、刑事訴訟の根本構造を破壊する、由々しい、重大な行為である。そして、その行為は、検察庁法第二三条第一項の「……その他の事由に因りその職務を執るに適しない」行為にあたるので、検察官適格審査会において同検事が罷免させられる理由にもなりかねないものである。

又右のうちの国税不服審判所への不服申立の取下げの強要についても、その際、前述のように、井内検事は「取下げれば執行猶予にしてやる」と、被告人に対し甘言をもって釣ろうとしたが、被告人が自分に対し執行猶予をつけ得るのは裁判所だけであって、検察官がつけられないことを知っていたので、それに応じなかった。このように自己に権限のない井内検事が、あたかも権限があるかのように装って、好餌をもって被告人を釣ろうとするとは一体何事であるか。これこそ増上慢の甚だしいものであると申しても過言ではない。

(4) 右のように井内検事が被告人に対し、「東弁護人を解任せよ」ということと、「国税不服審判所への不服申立を取り下げろ」ということを一パックにして、数知れず、約二〇〇回も強要したのは、何にもとづくのであるか。それは同検事が、本件が他日裁判になって、弁護人らや被告人が同人の自白調書の任意性や信憑性を強く争ったとき、裁判所がそれらの声に耳を向けて、自白調書を軽々に、安易に、証拠として採用しない可能性が大きいと予測したからである。もしそれらの自白調書が被告人の真意にもとづくものであるならば、井内検事は自信をもって、その調書の証拠調べの申請をすべき筈である。ところが同検事はその自白が被告人の言い分を全然聞かずに、自己が作った見取図にもとづき、あらゆる脅迫、暴言、詐言をもって強要した、いわば砂上の空閣、根なし草のような自白であることを熟知していた。

そこで井内検事は、被告人が第一審の第九回公判で述べたように、自白調書プラス何らかの形の支えがほしかったのである。その支えの形の一つが自己の目障りになる東弁護人の解任強要であり、その支えの形の二つが国税不服審判所への不服申立の取下げの強要である。

とくに東弁護人が捜査の開始に先立ち、被告人を始め社員ら全員に強く指示した「過去に起きた真実は唯一つしかない。そこでそれのみを検察官に対して主張して調書に載せてもらえ」というのは、当然すぎる程当然のことを言っているに過ぎない。しかし井内検事にとっては、東弁護人のこの一言が余程カンに障ったのか、同弁護人を苦手、目の上のタンコブ扱いにして、被告人に対しその解任を執拗に迫ったのは、自己の後ろめたさをことさらカモフラージュしようとした、卑劣な行為であるというの外ないものと考える。

(六) 以上(五)の(1)ないし(4)の経過よりすれば、井内検事は被告人に対する当初の取調べより一貫して、被告人の自白のみを強要して、その自白調書を作り上げ、これをもとにして被告会社ならびに被告人を有罪に陥れるべく、目的のためには手段を選ばず、あらゆる方策を講じたものであると断ずることができる。一体、井内検事はそれ程までにして、被告会社ならびに被告人を有罪に陥れたいのであるか。これでは井内検事、ならびに同検事が所属する東京地検特捜部は、「自白強要機関」、即ち「冤罪者製造機関」であると目されても反論のしようがないのではあるまいか。もし全国民が、本件において井内検事が、「真昼の暗黒」とも申すべき同検事の密室において、被告人に対しどのようなことを行なったかという実態、即ち、同検事によって、その密室においてどのようにして被告人に対する自白調書が作成されたのかという経緯を知ったならば、必ずや全国民は、東京地検特捜部を「国民の怨府」と見倣して、同特捜部に対して轟々たる非難の声を浴びせかけ、同特捜部に対する国民の信頼はその地を払うに立ち至るであろう。

2 原判決は弁護人らの右の被告人の自白調書には任意性、信用性なしとする主張に対し、「被告人は捜査段階から弁護人を選任していながら、脅迫、強要という極めて重要な事態を直ちに弁護人に訴えていないのは、所論を前提とすれば甚だ不自然であるのに、被告人により合理的な説明はまったくされていない」と説示されている。

この点につき、被告人の第一審公判廷における供述によれば被告人は四月二六日付ならびに翌二七日付の自白調書にやむなく署名、指印した後、同月二九日まで地検に罐詰になったと同様に、弁護人らと連絡することが全く不可能であった。そして翌三〇日午前一〇時過頃地検へ出頭する途中、社員の加藤と共に弁護人らの事務所へと立ち寄ったが、出頭時間が迫っていて時間がなかったことの外、被告人が東弁護人の強い指示に背いて、四月二六日の深夜井内検事の軍門に降ったので、被告人が弁護人らに対し、右の四月二六日の深夜の出来事を言いそびれて、報告しないまま、弁護人らに促されて、同事務所を早々に辞して地検に出頭したのである。そして右の四月二六日の深夜の出来事については、被告人がそれより六日後の五月六日頃両弁護人に対して詳しく報告した。これが右の説示のいう「脅迫、強要という極めて重要なる事態を直ちに弁護人に訴えていない」ことの真相であって、何ら不自然なことはないのである。

3 又原判決は、「当初の概略的な自白調書に署名指印してから約一か月の間に弁護人と十分対応を協議する余裕があったにもかかわらず、契約書や領収書などの多数の客観的資料に基づく具体的かつ詳細な自白調書(五月三一日付)他一通への署名指印にも応じている。これは所論を前提とすれば甚だ不自然であるのに、被告人により合理的な説明はまったくされていない。」と説示している。

この点については、前述のように、弁護人らは四月三〇日の午後、要望事項書を携えて井内検事と面会した際に、同検事の憤怒の塊のような形相をして烈火の如く弁護人らに接した態度を見て、これではとてもとてもまともに対応できる相手ではなく問答無用であると、同検事を完全に見放して、同検事との接触を一切絶ち、今後は法廷において裁判所に対し真実を聞いて頂く外に道はないと固く決意した。弁護人らはそのため、五月六日頃被告人より井内検事の強圧に屈して四月二六日付及び翌二七日付の各自白調書に署名、指印せざるを得なかった経緯の報告に接したときも、被告人の処置を了承するとともに、被告人に対し、五月三一日付及び六月三日付の各自白調書が作成されるまでの間に、井内検事に対し四月二六日付及び翌二七日付の各自白調書の内容の訂正方の申し入れを指示するようなことは一切しなかった。その上被告人も一旦自白してそれが調書に記載されるとそれを訂正することは不可能であると思い込んでいたので、井内検事の前記両自白調書の是正を申し入れることをしなかったのである。そこで、右の被告人の処置を不自然で、合理的な説明がまったくされていないという原判決の説示には、到底賛同することができないのである。

(七) そこで原判決は、「そうすると、所論に符号する被告人の原審公判廷における供述を信用することができないとした原判決の判断は、正当と認められる。」と結論づけているが、これは全くの誤りで、被告人の第一審公判廷における供述こそ、被告人が「過去における唯一の真実」をありのままに吐露したもので、これのみが信用するに足りる供述なのであるというべきである。

五1 原判決は二の3の(一)、(二)((一)(二)は弁護人加筆)において、次のように説示している。

「3 第二次及び第三次契約は、その実態等からしていずれも仮装されたものであると認められる。

(一) まず、所論のうち、第三次契約により、昭和ランマーが一億一〇〇〇万円の転売利益を取得したという点は、同金額を含む合計三億九三〇〇万円全額が被告会社に対する利益保証であるとする所論と整合しない。また、第三次契約における、昭和ランマーが、被告会社に土地転売利益が発生することを隠蔽するために介在させた被告会社のダミーであることは、昭和ランマーの企業としての実態、同社が取引に介在するに至った経緯のほか、同社の関係者が取引の交渉に一切関与せず、契約書作成に際しても立ち会っていないことなどの事実に照らして疑いがない。他方、被告会社は浦和物件の取引に関して何ら実質的な交渉等をしておらず、単に形式的な取引当事者として介在して土地転売利益をあたえられたに過ぎない。以上のとおり、所論にもかかわらず、同物件に関し昭和ランマー及び被告会社を介在させた取引が、被告会社において一億一三〇〇万円の土地転売利益を取得し、さらに内一億一〇〇〇万円について被告会社の法人税を免れる目的のために仮装されたものであることは明らかである。

(二) 次に、第二次契約についてみると、被告会社は、そもそも戸建て専門の業者でマンション建築の実績がない上、同予約契約締結当時、本件マンション建築の元請けとなるために必要な建設業法上の特定建設業の許可を取得していなかったのに、同契約締結に当たってリクルート及び被告会社の関係者らが特にその点に注意を払った形跡が見当たらないところ、現実にリクルートが発注し被告会社が元請けとなることが予定されていたのであれば、同許可の有無を考慮しないということは理解し難く、不自然といわざるを得ない。また、同予約契約の内容を子細にみると、被告会社が工事を下請けに出す際の相手方業者や工事代金額までが発注者のリクルートによって指定されている点(同契約書第六条)及び下請けの工事代金額に増減があった場合には被告会社に対する元請けの工事代金額もこれに連動して増減させることが予め合意されている点(同第八条)など、真実の契約と考えるには不自然、不合理な個所がある。さらに契約後の経緯をみても、平成五年三月までに本件マンションの建築に必要な都市計画法上の開発許可や建築確認の取得が完了したのであるから、第二次契約が真実の契約であればほどなくこれに基づく請負本契約の締結が行われていたはずであるのに、リクルートは、被告会社との間で請負本契約を締結しようとはせずに、被告会社には特定建設業の免許がないことを理由に第二次契約の履行不能を通告した上、直接飛島建設株式会社に対して本件マンションの建築工事を発注し、さらに授受の根拠がなくなった二億八〇〇〇万円について返還の請求をせず、被告会社からの返戻の申し入れに対しても受領を拒んでいることが認められるのであって、これらの一連のリクルートの対応は、第二次契約が形を整えるためのものであったことを如実に物語っている。結局、第二次契約は二億八〇〇〇万円を所得計上の必要のない請負予約証拠金という名目を装って被告会社に取得させるために仮装されたものと認めざるを得ない。」

2(一) 右のうち(一)の第三次契約については、

(1) 被告会社が、リクルートの同会社に対する利益保証の全額三億九三〇〇万円のうち、第二次契約の分二億八〇〇〇万円を除いた一億一三〇〇万円につき、

ア そのうちの一億一〇〇〇万円を、昭和ランマーを浦和物件の転売に介入せしめて同会社に利益として得させ、その直後、同会社の土門義明が被告人個人に対して負担している約四億円に達する債務の一部弁済として、右土門の代理人の蛯名より被告人に交付した。

しかし右の一億一〇〇〇万円については、被告人に対する借入金の返済なので、被告人は被告会社の所得として申告しなかった。ところが昭和六三年一〇月頃被告人が所轄の中野税務署より、右の一億一〇〇〇万円は被告会社の所得として申告すべきものであるとの指摘を受けたので、被告人は右金員を昭和ランマーの土門に返還し、同人がこれを被告会社に交付した。そこで同会社では平成元年四月期の確定申告の際、右金員を雑所得として計上して、それに関する法人税を納付した(弁第一号証)。そのうちの残りの三〇〇万円は、被告会社が昭和六三年四月期の確定申告の際同会社の所得として申告して納税をすませた。

右のように、被告会社は、実質上浦和物件の転売利益として、一億一三〇〇万円を取得したものであるから、第三次契約により昭和ランマーが、一億一〇〇〇万円の転売利益を取得したことと、同金額を含む合計三億九三〇〇万円の全額が被告会社に対する利益保証であるとする弁護人らの主張には、両者間に整合性があるので、その点に関する原判決の説示は誤りである。

イ 又昭和ランマーは被告会社がリクルートの了承を得て、浦和物件の転売に当り経済的利益を得るために介入させたもので、同会社は赤字会社ではあるがれっきとした独立の会社であって、被告会社のダミーではない。なお、昭和ランマーの関係者が取引の交渉に一切関与せず、被告会社の蛯名が昭和ランマーの代理人として第三次契約の作成に立ち会ったこと、他方被告会社が右取引の実質的な交渉等をせず、単に形式的な取引当事者として転売利益を与えられたことは事実であるが、これは被告会社とリクルートが相互に了解した上で契約を結んだものであって、契約自由の原則からいって何ら不法、不当なものではない。

(2) そこで浦和物件に関し、昭和ランマー及び被告会社を介在させた本件取引が、被告会社において一億一三〇〇万円の土地転売利益を取得し、さらにそのうち一億一〇〇〇万円について被告会社の法人税を免れる目的のために仮装したものであるとする原判決の説示には、断じて承服することができない。

(二) 右のうちの第二次契約については

(1) 原判決は先ず、「被告会社は、そもそも戸建て専門の業者でマンション建築の実績がない上、同予約契約締結当時、本件マンション建築の元請けとなるために必要な建設業法上の特定建設業の許可を取得していなかったのに、同契約締結に当たってリクルート及び被告会社の関係者らが特にその点に注意を払った形跡が見当たらないところ、現実にリクルートが発注し、被告会社が元請けとなることは予定されていたのであれば、同許可の有無を考慮しないなどということは理解し難く、不自然といわざるを得ない。」と説示している。

この点については、右第二次契約締結当時、被告会社が特免の許可を取得していなかったのに、リクルートの長谷部や被告会社の添野等の関係者が特にその点に注意を払った形跡が見当たらないのは事実である。しかし被告会社はマンション建設の経験がないから契約当初マンション建設に特免が必要であることを知らなかったのであり、知ってからも長谷部や添野は他日被告会社が元請けとなる本契約を結ぶことに直面すれば、被告会社が特免を有する建設会社とジョイント・ベンチャーを組むなどして、特免問題をクリヤーすることが出来ると考えていた。この外、右の第二次契約書については、リクルートの顧問弁護士が同社の社員と共に原案を作成して被告会社にファックスで送付して来たので被告会社側では法律専門家のリクルートの顧問弁護士らが作成したものであるから信用するに足りるとして、リクルートに対しその原案で結構であると回答して、契約書が出来上がった経緯がある。そこで、右第二次契約締結当時、被告会社に特免がないことを考慮しなかったといって、これを理解し難く、不自然であるといわざるを得ないとした原判決の説示に、賛同することはできないのである。

(2) 次に原判決は、「また同予約契約の内容を子細にみると、被告会社が工事を下請けに出す際の相手方業者や工事代金額までが発注者のリクルートによって指定されている点(同契約書第六条)及び下請けの工事代金に増額があった場合には被告会社に対する元請けの工事代金額もこれに連動して増減させることが予め合意されている点(同第八条)など、真実の契約と考えるには不自然、不合理な箇所がある。」と説示している。

しかし被告会社が下請に出す際の相手方業者がリクルートによって指定されているのは、同会社の工事を数多く請負っている業者に請負わせるのが好都合である。従って同契約書の第六条の第二項の末尾には、「本件建物の仕様は、甲(リクルート)の定める標準仕様書Bと同程度とする。」として、リクルート側の仕様に従うようにも規定してあるのである。又工事代金額がリクルートによって指定され、かつ下請の工事代金に増減があった場合には、被告会社に対する元請代金額もこれに連動して増減させることが予め合意されている点も、本件契約によりリクルートが被告会社に二億八〇〇〇万円という経済的利益を与えるという配慮から出たものであって、このことについても契約自由の原則上何ら不法、不当のそしりを受けることはない。そこでこれをもって真実の契約と考えるには不自然、不合理な箇所があるとする原判決の説示にも、到底賛成することはできない。

(3) その次に、原判決は、「さらに、契約後の経緯をみても、平成五年三月までに本件マンションの建築に必要な都市計画法上の開発許可や建築確認の取得が完了したのであるから、第二次契約が真実の契約であればほどなくこれに基づく請負本契約の締結が行われていたはずであるのに、リクルートは、被告会社との間で請負本契約を締結しようとはせずに、被告会社には特定建設業の免許がないことを理由に第二次契約の履行不能を通告した上、直接飛島建設株式会社に対して本件マンションの建築工事を発注し、さらに、授受の根拠がなくなった二億八〇〇〇万円について返還の請求をせず、被告会社からの返戻の申し入れに対しても受領を拒んでいることが認められるのであって、これらの一連のリクルートの対応は、第二次契約が形を整えるためのものであったことを如実に物語っている。結局、第二次契約は、二億八〇〇〇万円を所得計上の必要のない請負予約証拠金という名目を装って、被告会社に取得させるために仮装されたものと認めざるを得ない。」と説示している。

右の説示のことについては、リクルートと被告会社間において、前述の九者会談以降次のような交渉が重ねられて民事訴訟に立ち至り、それが和解によって解決した経緯があるので、その経緯について次に説明した上、右の説示に対する反駁を試みることとする。

(ア) 本件の開発許可が平成四年八月に下りたのに引きつづき、建築確認が平成五年三月五日に下りたが、その直後同月二二日付にて、リクルートより被告会社に対し、通知書が送られて来た(弁二号証の一)。それによると、「被告会社には特免がないから、本件マンションの請負契約は履行不能と確定した」とあった。右の「第二次契約は履行不能と確定した」というのは、正に第二次契約が存在していることを前提とした言葉である。これは右の第二次契約が公表上仮装であるとする原判決ならびに第一審判決の認定を否定する、非常に重大な意義を持つ言葉である。そして右の通告は、「第二次契約は履行不能と確定した」というだけで、それ故当然無効になるのか、あるいは契約を解除するのかについては、何ら触れていない。この点については、前述のように、第二次契約締結の際には、被告会社に特免がないことにつき、両当事者とも全然問題にせず、重視していなかったので、該契約が当然無効であるといったことについては、双方とも夢想だにしなかったのである。ましてこの第二次契約の原案をリクルートが作成し、それを被告会社が承認して出来上がった経過を見れば、とくにリクルートが第二次契約が当然無効であるなどということは、絶対に言い出すことができない筈である。そこで二億八〇〇〇万円の予約証拠金を、当然無効の故に授受の根拠がなくなったとして、リクルートが返還を請求したことも、被告会社からの返戻の申し入れに対しても受領を拒んだことも全くないのである。

(イ) 右の(ア)の通知書を受け取った被告会社では、被告人自ら筆をとって同年三月二五日付にて、「平成四年二月末日リクルートの長谷部から被告会社に対し被告人の実兄の飯田一男の経営する特免業者伏見建設と共同事業でこの請負工事を行なうように依頼されたので、被告会社ではそれにもとづき、同年三月二〇日付にて伏見建設に対しその旨を依頼した。その後リクルートでは、平成五年三月五日に建築確認を取得したので、被告会社は同月二〇日付にて、伏見建設と共同建築請負事業に関する協定書を結んだ。故に被告会社はリクルートの依頼に対し、このように十分応えている。よってこの土地契約は建築条件付の売買なので、(第二次契約が履行不能であるというなら)第一次契約と第二次契約を解約して、金銭全てを返還して白紙とする」という回答書をリクルートに送付した(弁二号証の二)。

(ウ) これに対しリクルートは同年四月七日付にて回答書を被告会社に送付して来たが、それによると「ご指摘の請負契約には何ら変更がなく、債務不履行もない」として、第二次契約が適正、有効に成立したものであることを明確に認めている(弁第二号証の三)。

これを受取った被告会社では弁護人両名の名義で同月一六日付にて、「当方も本件請負契約は履行不能になっておらず、右契約には何ら変更がなく、現在においても有効に存続しているものと確信している。故に建築確認が下りた現在、第二次契約の第四条第一項に基づき、速やかに本契約を締結しようじゃないか。」という通告書をリクルートに発送した(弁第二号証の四)。するとリクルートでは代理人の末吉弁護士を通じて、同年五月六日付にて回答書を被告会社に送付して来たが、そのなかで「共同事業による受注を具体化したうえ、リクルートに提案していただければ、本件請負予約の変更も検討する。しかし提案がなかったため、当方で建築確認を取った。リクルートとしては、本件請負契約変更の意思は全くない」といっている(弁第二号証の五)。このようにリクルートはここでも第二次契約が真正で、有効であることを完全に認めているのである。そこで東弁護人が被告人と相談の上、被告会社の代理人として、右末吉弁護士に電話して、「リクルートの方で早くマンションを建てたいならば、私共弁護士が最大の協力をするから、一度会って話合いをしようではないか」と申し入れた。すると、それより数日後末吉弁護士より電話があり、「リクルートの上部の人と相談したら、被告会社が刑事の裁判中であるから、両者の会談は裁判が終わるまで待ってほしい。」ということであった。

(エ)(a) ところがその後リクルートは平成六年一月頃、第二次契約の第四条に同会社が被告会社と、本件土地の上に本件建物の建築請負契約を締結すると規定してあるのに明らかに違反して、被告会社に対しなんらの通告もしないで、ほしいままに、本件土地の上にマンションを建設することを飛島建設に発注し、同建設は多田建設に下請させ、右マンションは七、八割方完成していた。

これを知った被告会社では、あたかも被告会社の顔に泥を塗ったように、信義にもとって、被告会社の信用をいちじるしく失墜させる行為に出たリクルートに対し、強く抗議を申し入れた。これに対し、リクルートでは、被告会社が本件土地に関し、脱税事件により刑事訴追を受けてその裁判が進行中であるという理由の下に、依然として裁判外での話し合いに応ぜず、被告会社が民事訴訟を提起するならば、裁判の席でこの問題に対処する旨被告会社に回答した。

そこで被告会社では当弁護人等に対し、民事訴訟を提起することを要請し、当弁護人等はこれに応じて、代理人として、平成六年二月七日第二次契約の第一〇条第一項により、リクルートに対し、本予約契約を解除すると共に、本件土地売買契約も解除したうえ、東京地裁へ本件土地の返還を求める訴えを提起した。

これに対しリクルートでは答弁書の第二の二の1において、「第一次契約締結の日と同一の日付で被告会社との間で、本件土地のマンション建築に関する請負予約契約が締結されたことを認める」と述べて、第二次契約の存在を明白に認めた。そして同年六月九日の第四回口頭弁論期日において、両者間に和解が成立した。その際の和解調書の内容は次の通りである。

和解条項

一 原告は被告に対し、別紙物件目録記載の土地が、被告の所有であることを確認する。

二 被告は原告に対し、本件和解として金三〇〇〇万円(ただし、内金一〇九〇万四〇〇〇円は税金負担分である。)の支払義務のあること認め、右金員を平成六年六月二〇日限り、左の指定銀行口座あてに送金して支払う。

指定口座 店名 第一勧業銀行鷺宮支店

口座番号 普通 一三〇五一四三

口座名義 株式会社徳波 代表取締役 飯田徳森

三 被告が前項の規定に違反した場合は、被告は原告に対し、残金及びこれに対する平成六年六月二一日から完済まで年一割四分(年三六五日の日割計算)の割合による金員を支払う。

四 原告と被告は相互に、本和解条項に定める事項のほか、何らの債権・債務の存在しないことを確認する。

五 訴訟費用は各自の負担とする。

物件目録

所在 埼玉県大宮市堀崎町

地番 壱壱弐弐番弐

地目 畑

地積 参九六参平方メートル

(b) 右和解条約の内容について、

(ア) 第一項は本件土地がリクルートの所有であることを確認するとして、指導価格による第一次契約の成立を追認している。

(イ) 第二項はリクルートが被告会社に対し、本件和解金として金三〇〇〇万円(ただし税金を除いた額は一九〇九万六〇〇〇円)の支払義務のあることを認めた上、右金員の支払方法を規定している。これは前述のように、リクルートが被告会社に対し、一片の通知もしないで、本件土地の上にマンションの建設を強行したという、余りにも非道な処置に出たことに対する、第二次契約の第一〇条第二項中の精神的損害賠償の責任を認め、慰藉料として、このような多額の金員を被告会社に支払うこととしたのである。

なお、「本件和解金」という文言は、リクルートより被告会社に対し、和解条項の中で第二次契約の条項の文言を入れないで、漠然とした抽象的な文言にしてほしいという要請があったので、被告会社がそれを容れて、「本件和解金」というような漠然とした文言にしたのである。故に真実は、右の一九〇〇万円余りの金員は、右のような第二次契約の第一〇条第二項中の精神的損害、即ち慰藉料としての性質を有するものである。

(ウ) 第四項は「被告会社リクルートは相互に、本和解条項に定める事項のほか、何らの債権・債務の存在しないことを確認する」と規定している。第二次契約の第二条には、

(a) リクルートは本予約契約締結後速やかに本予約契約の証拠金として金二億八〇〇〇万円を支払い、被告会社はこれを日債銀新宿支店に預託する、

(b) 前項の証拠金は、第九条(請負予約契約書に第七条とあるのは誤り)に定める請負代金支払の際、請負代金に無利息で充当する、

とあって、被告会社がリクルートより本件建物の建設工事を受注したときは、右の証拠金は請負代金の一部として、被告会社が取得すべきものなのである。ところが前記のように、リクルートが被告会社に無断で、本件建物を他の建設会社に発注してこれを完成せしめたために、被告会社は見す見す右の二億八〇〇〇万円の利益を取得することが出来なくなった。そこでリクルートはこの点に対する非を認めて、右金員の返還を被告会社に請求することを止めて、被告会社に対し、第二次契約の第一〇条第二項の損害賠償中の物質的損害賠償として、同金員を被告会社に支払うこととした。前記和解条項の第四項の「両会社は相互に本和解条項以外に何らの債権、債務が存在しないことを確認する」とある規定のなかには、右のように二億八〇〇〇万円が被告会社の所有に帰するという趣旨が入っているのである。

なお、このように右の二億八〇〇〇万円の件が和解条項の第四項に入っていることとしたのは、前記(b)の(イ)の末尾の場合と同様、リクルートから被告会社に対し、本和解条項中に第二次契約の条項の文言を挿入することを避けて、漠然とした文言にしてほしいという要請があったので、被告会社がそれを容れて、そのような取り計らいにしたものである。

(4) もし原判決ならびに第一審判決が認定するように、本件土地が坪七九万円による単体の取引で、右の第二次契約の第二条第一項の予約証拠金の二億八〇〇〇万円が、公表上予約証拠金という形態をとることに仮装したものに過ぎず、実際は本件土地代金の一部であるとするならば、前述のように、リクルートでは、既に本件土地を被告会社より買入れて入手済みで、登記も済ましているのであるから、被告会社に対して本件建設につき何らの通告も必要とせず、同会社の立場を全然顧慮しないで、自己の欲するままに自由に着工すればよい筈である。とろこがリクルートが右の和解条項にもとづき、合計三億円弱という巨額の物質的ならびに精神的損害賠償金を支払わなければならなくなったのは、同会社が第二次契約が真正、有効に締結されたものであることを知悉して、これを無視することが出来なくなったからに外ならない。従って右の予約証拠金が、表見上は予約証拠金であっても、真実は本件土地代金の一部であるというような原判決ならびに第一審判決の認定が、完全に誤っていることは、火を見るよりも明らかであると言えよう。

そこで、「これらの一連のリクルートの対応は、第二次契約が形を整えるためのものであったことを如実に物語っている」とする説示は断じて誤りで、逆に右の一連のリクルートの対応がすべて第二次契約が適正で、有効であることにもとづくものであることを如実に物語っているのである。

(5) 従って、「結局、第二次契約は、二億八〇〇〇万円を所得計上の必要のない請負予約証拠金という名目を装って被告会社に取得させるために仮装されたものと認めざるを得ない」とする説示も亦完全な誤りである。右請負予約証拠金は預り金、前受金であるから、被告会社の所得に計上する必要はないが、他日本契約が結ばれて、第九条により請負代金に充当されて被告会社の所得に帰したときは、当年度の確定申告の対象になることは当然である。故に第二次契約が正味正真真実、有効で、仮装でも架空でもないことは、明々白々であるというべきである。

六 結論

冒頭に申し述べた通り、本件の争点は唯一つ、弁護人らが主張するように、第一次ないし第三次契約がいずれも適正、有効であるか、あるいは原判決、延いては第一審判決が認定するように、右の第一次ないし第三次契約がいずれも虚偽、仮装のもので、真実は第二次契約の建物予約証拠金の二億八〇〇〇万円と第三次契約の浦和物件の転売利益の一億一三〇〇万円がいずれも本件土地代金の一部であるかという点である。

一般的に申して、この種の契約はほとんどすべてそれが真正で有効であると信じて締結されるのが通例であって、それが本件のように、その契約が虚偽、仮装のものであって、真実の内容は他にあるとして締結されるというようなことは、千に一つ、万に一つあるかないか位の、極めて稀な、特殊の場合以外には到底考えられないのである。

もし原審ならびに第一審裁判所が第一次ないし第三次契約書を、何らの偏見もなく、素直に、ありのままにご覧下さったならば、それらの各契約書が、そこに書かれている通り、裏も表もない、第一次契約が本件土地が指導価格の坪四六万円による売買、第二次契約の二億八〇〇〇万円が請負予約証拠金、そして第三次契約の一億一三〇〇万円が浦和物件の売買への関与による昭和ランマーと被告会社の利益であって、それ以外の何物でもないこと、及び右各契約当時、その締結に立会った関係者すべてが右の各契約がいずれも真正、有効であると信じ込んで、それぞれの箇所に署名、押印してその契約を成立させたものであることを、ハッキリとご認識下さっていた筈である。それを原審裁判所が、実際は本件土地の坪約七九万円による売買であるが、第一次ないし第三次契約でその表面を糊塗、仮装し、そのなかの第二次契約の二億八〇〇〇万円と、第三次契約の一億一三〇〇万円が、何れもそれらの契約書に書かれている通りの内容ではなくて、右土地の坪約七九万円による売買代金の一部であるというような、凡そ一般の社会常識から完全にかけ離れた、ほとんどあり得ない、不自然極まる、不合理で、無理な、コジツケの認定をした第一審判決を追認されたのは、弁護人らがその点に関し、とくに第一審の弁論要旨ならびに控訴趣意書等において委曲を尽して、詳細にるる反論を申し述べたのに拘わらず、それに全く耳を傾けないで、起訴事実を安易に、軽々に信用して、それを鵜呑みにした第一審判決に迎合した結果であると断ずるより外に言いようがないのである。

そしてその結果、被告会社ならびに被告人をして、予想もしていなかった有罪に陥れて、両者に無実の罪を着せてしまった。これは厳正公平な立場に立って、「過去において唯一つしかない真実」を真に洞察した上、白を白、黒を黒と峻別して、白たるべきものに対して当然無罪の判決を言渡すべき、最も崇高で、最も重大な職責を有する裁判所の任務を、完全に放擲したものであると申しても過言ではない。

そこで当審におかれては、本件には判決に影響を及ぼすべき重大なる事実誤認があり、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するから、原判決を破棄した上本件を原審に差し戻すようご高配を賜りますよう、衷心よりお願いする次第である。

平成八年(あ)第一二五号

上告趣意書訂正申立書

被告会社 (株)徳波

(右代表者代表取締役 飯田徳森)

被告人 飯田徳森

平成八年九月一七日

右弁護人(主任) 東徹

同右 太田孝久

最高裁判所第三小法廷 御中

一 七頁五行目(本資料の九一二頁三行目)

「振込送金された」の次に「二億八〇〇〇万円及び第三次契約により被告会社及び昭和ランマーが取得する形とした」を加入する。

二 九頁六行目(本資料の九一三頁五行目)

「九者会談とする」の次に「弁護人加筆。」を加入する。

三 一三頁二行目(本資料の九一四頁一九行目)

「無いですね。」は「ないですね」に訂正する。

四 四三頁一二行目(本資料の九三〇頁一行目)

「被告人に」の次の「に」を削減する。

五 六六頁一行目(本資料の九四一頁一四行目)

「被告人は」の次に「被告会社の」を加入する。

六 八四頁一一行目(本資料の九五一頁一二行目)

「前渡金」を「前受金」に訂正する。

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